テナガコガネ亜科 Euchirinae
 亜科の基準属はクモテナガコガネ属(オオテナガまたはドウナガテナガという呼称もある)Euchirus であるが、亜科に対しては「テナガコガネ亜科」と呼ばれている。これは昭和の一時期まで台湾が日本領であった影響からタイワンテ ナガコガネCheirotonus formosanus に当時『テナガコガネ』と和名が付いており、しかもヤンバルテナガが知られていなかった(=唯一の日本産テナガ)ことで、このグ ループを代表する種が「テ ナガコガネ」だったからだと思われる。
 3属からなるそれぞれ少数の種を含む小グループであるが、日本産もおり、大型の上に形も変わっていて一部に人気がある。この程 度の数ならばすべて揃えら れそうにも見えるが、いくつかの理由によりフ ルコンプリートは今のところまず不可能である。シノニムとされて消される種もあったりするが、当面の収集困難種 は次のあたりであろう。
@Cheirotonus 属群
・マクレイテナガコガネ
 インド北東部やネパール周辺に産するが個体数が少なく、国策から採集者もあまりいないので入荷する標本量自体が少ない。ただ、 採集に行くことさえ出来れ ばある程度の採集は可能なようである
・タイワンテナガコガネ
 個体数はそれほど少なくないはずだが、産地である台湾で『保育種(天然記念物)』に指定されていて採集禁止であり、逆に日本で は2006年以降『特定 外来生物』に指定されて飼育できなくなったため、指定以前の標本を入手するしか方法がない
・フジオカテナガコガネ
 1994年に陜西省産の個体を元に記載された種で、タイプシリーズの個体数 が少なく(1♂1♀)変異 の幅は他種(gestroi )と 重なるのではないか、つまり同種ではないかとさえ言われた。その後得られている個体数も多くない。湖南省洋州、広東省南嶺産とい う個体群も本種として扱わ れており、こちらの方が流通は多い
・ヤンバルテナガコガネ
 言わずと知れた現在唯一の日本産。非常に有名であるが、実物を見たことがある人は非常に少ないと思われる。公式に発見されたの が1983年、記載が 1984年、天然記念物指定は沖縄県が1984年、国が1985年であり、詳しい生態も実際の分布もはっきりしないうちに勢いで 天然記念物指定されたこと が解る。天然記念物である 頃は死体を拾って来てもらう(県道2号とかで車にひかれていた)と言う入手方法もあっ たが、種の保存法では死体を含めて譲渡が禁止されており、自分で死体を拾うしか入手方法がない
APropomacrus 属群
・キプロスヒメテナガコガネ
 一時期「絶滅した」と言われていた(トルコ)ヒメテナガがヨーロッパで飼育されて入荷するようになり、さらに亜種fujianensis とはいえdavidi が入荷するよう になった今、ヒメテナガグ ループ最後の難関が本種である。キプロス島北東部に産するらしいが、2002年によう やく記載されたことからも解 るように個体数が少ない上に、キプロス島というのはギリシャ系住民とトルコ系住民の間で内戦状態となっており治安があまり良くな いようで採集も困難であ る。なんだかんだ言いながらテナガコガネについて解説してい るサイトはちょこちょこあるが、本種についての情報はほとんどない
・ムラモトヒメテナガコガネ
 2007年,2008年と相次いでチベットから記載された2種のうちの1つ。もう一方のテルヌマテナガは飼育で殖えているよう で(ほぼ必ずペアで売りに 出される)手に入りやすくなってきたが、本種はほとんど出回っていない

 ♂前足の脛節が長く、名前の由来に……、てか、そんな基礎情報が欲しい人は他のサイト行ってくれ。
 1984年頃ヤンバルテナガ発見による第1次ブームがあって台湾・タイを中心とした標本の入荷・書籍の出版があり、 2000年頃通称"活き虫 解禁"による第2次ブームでトルコヒメテナガ・ヤンソンテナガなどの大量入荷があり、2006年以降種の保存法がらみとチベット から複数の新種記載があっ たことで小規模な第3次ブームが続いている
日本・台湾・タイでは採集禁止、海南島・チベットも採集は困難である。標本もそうだが文献の入手が難しく、水沼氏の著作2つ、 Young(1989)、腮 角通信やKOGANEのBNがかろうじて手に入るくらい。さらにネット上でも日本のサイトは生き虫が飼育できた2006年以前に 公開されたものが多く、後 述のように学名 表記が違っていたり産地の記述も当てにならず、あまり参考にしたくない
Cheirotonus (テナガコガネ属)
前胸背板は赤銅〜緑銅色、前脛節に毛がなく鞘翅地色は黒色〜黒褐色
♂前脛節先端の形状・♀腹端の毛の状態などでmacleayi 群(尖る・広範囲)とparryi 群 (棍棒状・狭い) に分けられる
インド北部〜インドシナ半島、チベット〜中国中南部(秦嶺山脈以南)、海南島、台湾、南西諸島に分布している
◎マクレイ テナガコ ガ ネ Cheirotonus macleayii Hope, 1840
=macleayanus Burmeister, 1842
♂:46-70mm ♀:48-57mm
アッサム・シッキム・ネパール・ブータンなどに分布し、ある程度以上の大きさの
個体で前脛節中央の刺が先端の ものより長いのが特徴とされる
ここのところインド産の虫は入りにくくなっているが、以前からあまり個体数は多い方ではない。上記の刺の長さや前胸の形状が異な るのである程度の大きさが あれば見分けは付くものの、同じグループとされるゲストロ〜バターレル〜タイワンを本種 の亜種扱いしている研究者もいる

Darjeeling E.India











Arunachal Pradesh N.E.India








Arunachal Pradesh N.E.India
◎ゲス トロテナガコガ ネ Cheirotonus gestroi Pouillaude, 1913
=henrici Pouillaude, 1913
=corompti Pouillaude, 1913
=chiangdaoensis Minet, 1987
ssp. lehmanni Baba, 1997 ミャンマー:タニンダリー
♂:44-70mm ♀:40-58mm
インド〜インドシナ半島にかけて分布する広域分布種で、個体変異と相まっていくつ か別種で記載 されたシノニムがある。それなら生き残っている ssp. lehmanni は違いが認められているのかというとそうとは限らず、産地が曖昧なままにされていて検証のしようがないからである(記載者本 人いわく「数 百m離れたらgestroi に なってしまう」と言う状況で産地が曖昧だと、いくら「刺の長さや交尾器が違う」と言 われても 困ってしまう、「これはgestroi 個 体変異の範囲だからシノニムだ」と判断しても、「それは産地が 違うのでssp. lehmanni ではない」と言われたら議論にならない)。
 また、
ssp. lehmanni に相当すると思われる個体がタ ニンダリー以外にタイのナコーンシータンマラート (Nakhon Si Thammarat)県から得 られており、数百m隔ててgestroi が分布している状況と合わせると、lehmanni gestroi の亜種ではなく、battareli の亜種か場合によってはbattareli そのものである可能性も考えられる

Chudu Razi E.Kachin Myanmar

Fang Thailand

XamNeua Laos

Mt.NgocLinn Kontum prov. Vietnam
↑前腿節の前側突起と前胸後縁の 形状に注目。左から henrici  chiangdaoensis 又はgestroi   gestroi  corompti に相当すると思われる




Bach Ma Danang Vietnam


Chudu Razi E.Kachin Myanmar

Fang Thailand

XamNeua Laos

Bach Ma Danang Vietnam
亜硫酸ガス 処理する と Fang産のようにな り、通称「油が出た」状態なのが XamNeua産、酢酸エチルなどで殺し、乾燥させるとDanang産のようになる
ssp. lehmanni

XXXX (タニンダリーではない)

←結構意外な産地の小型個体
鞘翅の斑紋は少ない


前脛節中央の刺は基亜種より長い



頭部前縁は突出する



小型なので目立たないが、中型以上では前胸後部が強く湾 入する



◎バターレ ルテナガ コ ガネ Cheitrotonus battareli Pouillaude, 1913
♂:46-66mm ♀:44-55mm
ベトナム北部・ラオス北部に産する
ベトナム南部の個体群(corompti ) はゲストロのシノニ ムで消えているが、本種は一見して光沢が強く、独立種とする考え方が一般的。

Caobang Vietnam

Caobang Vietnam

Lao Cai Vietnam

Hua Phan Xamnua Laos

Lao Cai Vietnam


Caobang Vietnam


↑のXamnua産は前胸の形状などから見て battareli に見える
産地データを信用すれば前種と混棲していることになるが…




2012年第63回インセクトフェアにて、K谷商会からM氏の委託と言うことで謎のテナガ(ペア)が売りに出されていた。産地は 広西チワン族自治区、 Countyは特定できなかったがBaise(百色):CaoBang北方雲南省寄り)産で、前胸と前肢、および腹端はbattareli  っ ぽいのだが鞘翅がヤンバルの如く黒い個体で、「半額なら買う」というのが何人もいたが、店主は「その値段なら私が買います」との ことだった。そりゃそうで ある
◎テナガコ ガネ(タ イワンテナガコ ガ ネ) Cheirotonus formosanus Ohaus, 1913
♂:46-64mm ♀:48-58mm
台湾ほぼ全域のやや高標高地に産する
最初に述べたように台湾では保護昆虫になっており、新規の個体入手は困難。暗い色彩の鞘翅に黄紋が入るが、黄色ラインはほとんど 出現しない

南投県 台湾

霧社


フジオカテナガの記載中に述べられているように、タイワンテナガの前胸には点刻の粗いタイプ(上・右側の個体)と細かいタイプ (下・左側の個体)がある

仁愛郷松崗 南投県

阿里山 嘉義縣


霧社


阿里山 嘉義縣


◎フジオカ テナガコ ガ ネ Cheirotonus fujiokai Muramoto, 1994
♂:39-62mm ♀:42-53mm
 原記載に用いられた個体は1♂1♀で、♂の特徴だけではformosanus とほとんど区別できないという 声もあるが、陜西省秦嶺産 という分布と♀後胸腹 板の状態によって別種扱いされ ている。その後同様の特徴を持つ個体が湖南省や広東省から得られており、下に図示できたのは広東省産。Type locality からは離れているが、鞘翅の黄紋が大きくまばらなこと、前脛節や後脛節の形状、前胸に光沢があって点刻が細かく、後縁が切れ込ま ないことなどから本種とし て扱われている個体群である。♀はかなり細身に感じるが、そもそもTypeの♀は1頭で図示がなく、特徴も簡単にしか書かれてい ないことから特殊な個体な のかこういうモノなのか判断できない。いずれにしろ場所柄入手が難しい
 水沼哲郎氏の著作『コレクションシリーズ:テナガコガネ・カブトムシ』には体長39mmの本種が図示してあり、40mm以下のCheirotonus 属など他に見たことも ない。本種か次種がCheirotonus 属 最小の種だと思われる
 Wikipediaではなぜか"Cheirotonus fuziokai " と綴られており、確かめもせずに単純に引用したのか日本語のサイトだけを見ると、正しく"fujiokai "としたサイトだけでなく"fuziokai "としたサイトが非常に多いという不思議な現象が生じ ている。まぁ月刊むしのバックナンバーを参照するのは困難であるとは言え、サイトで図鑑の如く解説するのであれば原記載をあたる か、少なくとも正確な記述 を何らかの方法で確認すべきであろう

広東省南岭


広東省南岭


広東省南岭


◎テルヌマ テナガコ ガ ネCheirotonus terunumai Muramoto, 2008
♂:40-69mm ♀:41-55mm
2008年に記載されたチベットの個体群。鞘翅には黄紋があり、前脛節の湾曲がかなり大きい。韓国のサイトでは parryi 群であるような記述がされている ものもあるがどう見てもmacleayi 群である。記載が新しくまだ流通していないだけで、そこそこの個体数 が 得られており、台湾などで飼育もされているらしく、2011年末以降何回かに 登場したほか、年末のフェアでも売られていた。2012年になって李景科氏からもたらされた情報では『Pele La-Pass, 27°33’N, 90°12’E, Bhutan』というデータの付いた鞘翅の斑紋が多いものの本種と思われる個体が得られている他、ラッセルから体長69mmとい う本種が売りに出された

Xiachayu Chayu County Tibet

Xiachayu Chayu County Tibet

Xiachayu Chayu County Tibet






Xiachayu Chayu County Tibet


上下方向の湾曲もそれなりに大きい

小型の個体では前脛節 の湾曲はそれほど大きくないが、他種と比較 すれば確かに大きい



◎マレーテ ナガコガ ネ Cheirotonus peracanus Kriesche, 1919
=arnaudi Minet, 1981
♂:47-71mm ♀:44-60mm
ヤンバルテナガブームの際にまとめられた水沼論文などによって従来arnaudi とされることが多かったが、 藤岡氏の研究で表記の扱い となった
マレー半島キャメロンハイランド周辺に産し、開発に伴う生息地の減少が危惧されており、あまり見かけなくなった。最近はゲンティ ンハイランド産のものが多 くなっている

Cameron Highland


Cameron Highland


Genting Highland Malaysia

Genting産の個体は亜硫酸ガス処理されたもので、 産地間の 色彩の差ではな い

◎パリーテ ナガコガ ネ Cheirotonus parryii Gray, 1848
♂:40-71mm ♀:48-60mm
原記載での綴りはparryii i が2つ)らしい。要はNeolucanus saundersii のように所有格+i という形になっている模様。
インド北東部〜ミャンマー・タイ・ラオスにかけて産し、前脛節中央の刺はタイ産の 大型個体で最も長くなる。分布が重なるgestroi とは前胸の形状や光沢で区別できるが擦れた♀では慣 れないと 区別が 難しい。ラオスに産する個体群は前胸の幅がやや狭く、腹部の幅を超えないという他地域産と区別できる特徴を持つが未命名

Chiangdao Thailand

ChiangMai Thailand

Mizoram E. India

Chiangdao Thailand
上の個体は左前脚の先端が曲がっているがこれは何らかの異常 で、 右前脚が本来の形状である


Chiangdao Thailand

↑こちらの個体も前脛節中央の刺が曲がっている。本種は刺が長 いので蛹 の時に異常が出やすいのかも知れない。Mizoramは本種の産地としてはほぼ西限、Thai産とは中央刺と先端刺の間隔が少し 異なるようである
◎ヤン ソンテナガコガ ネ(キベリテナガコガネ) Cheirotonus jansoni (Jordan, 1898)
=nankinensis Yu, 1936
=parryi Bates, 1890 (nec Gray) ←本種に対する最古の命名であるが、もちろんparryi Gray, 1848に先取されておりホモニムで無効
=szetshuanus Medvedev, 1960
♂:47-78mm ♀:49-66mm
ベトナム北部〜中国南西部および海南島に分布、ミャンマー東部でも少数得られている。村本(2008)や中国のサイトでラオスを 分布域に加えているが文 献・標本ともに未検。しかし 南ベトナムまで分布しているので、ラオスやカンボジアに分布していても不思議ではない
Szetshuanus は前胸の形状と鞘翅の黄色部から別種とされたこともあったが、個体変異の範囲と言うことで一般にはシノニムとされている。Cheirotonus 属グループではおそらく最も大型になり、脚を含めずに78mmという個体が確認されている。本種と次種ヤンバルテナガの鞘翅は金 属光沢のある黒緑色で黄紋 は鞘翅肩部分のみにあるが、一部の♀と♂でもごく稀に鞘翅に黄紋を散らす個体が出現し、本種ではさらに黒色部がかなり少ない変 異個体や鞘翅がほとんど黄色の個体が存在している。

広西壮族自治区 柳册市

大瑤山

湖南省 懐化
ネット上で、本種が広西壮族自治区においてサトウキ ビの害虫化して問題になっているという指摘がある。これは中国の『植 物保護』誌上の 論文「近年の広西サトウキビにおけるヤンソニーテナガコガネ被害」が元になっているが、論文内容によれば被害を与えているのはDorythenes granulosus (Thomoson) すなわちノコギリカミキリで、テナガコガネに関する記述は1行も出てこない。本種が腐葉土で発生している のは確からしいが、論文の 表題がなぜ「…ヤンソニーテナガコガネ被害」となったのか謎である

貴州省

宣威 雲南省

広東省 南岭
中国産とベトナム産を比較すると中国産はやや体型が細 く、大型化 する傾向にあるようだが今のところ亜種区分がされていない

Tamdao Vietnam

Tamdao Vietnam

Tamdao Vietnam

Tamdao Vietnam




◎ヤンバル テナガコ ガ ネ Cheirotonus jambar Kurosawa, 1984
♂:45-65mm ♀:46-60mm
Cheirotonus グループではもっとも面積の狭い領域に分布する個体群であると思われ、沖縄島内での分 布は北部に限 ら れ る。公式に発見されたのは1983年とされていてどんなサイトにも 「1983年に発見され」と書かれているが、非公式にはそれ以前の記録がある(下記参照)。
"ヤンバルテナガコガネ"や"Cheirotonus jambar"で画像検索をかけると多数のサイトがヒットし、不思議なことに外国のサイトでも標本が図示されていたりするがその 大部分が♂で、♀が図示さ れているサイトはほとんどない。体長は最大65mm近くにはなるようで、科博のタイプ標本も64mm以上ある。一方小さい方は記 載文から50(51) mm〜 とされることが多いが、45mm以下の 個体も存在している
形の上では厳重な保護政策が採られているように見えるが、自治体による原生林の伐採自体は規制されていない。また、2001 年にヤンバルテナガコガネ密猟防止協議会が発足した当時は、非常に的確 に発生木の周辺に「テナガコガネを 採らないで」という幟が立てら れており、もし密猟者がそれに気づくと幟が目印になりかねない状況にあったというようなお寒い保護政策が とられていた。


左の標本は、1987年9月、まだ工事中だった大国林道途中の 終端分岐 脇で拾ったもので、もちろん数日かけて周辺を捜索したが頭胸部を発見することはできなかった
黄紋はほとんどなく光沢があり、左鞘翅におそらく鳥(ノグチゲラだったりして)に補食されたためと思われる円形の穴が空いている
胴体はすでにカツオブシムシ幼虫がたかっていてバラバラ寸前だったため、当時は手に入りやすかったタイワンテナガのパーツで補強 してある
天然記念物指定前に発見・採集された個体
発 見者
採 集年/月/日
備  考
不詳:国頭中学標本
1977?
♀液浸標本※1
伊藤敏仁
1982/04/02
♀腹部のみ
山登明彦→藤田宏
1982/冬? 1983/11羽化 1♂3♀※2
仲宗根貞子※3
1983/09/15
1♂
水沼哲郎
1984/02/09
5♂2♀ 幼虫多数
文献への発表が最も早かったのは伊藤氏の記録
※1:国頭中学校標本は1984年10月、保存されているのが発見された
※2:藤田標本は画像が公表されたのは1♀だが、採集された幼虫は6頭、1♂3♀が羽化するも♂は羽化後まもなく死亡、2♀は羽 化不全
※3:普久川標本の採集者は水沼本では比嘉憲明、ヤンバルテナガコガネ実態調査報告Tでは仲宗根貞子、記載文では N.Nakasoneになっている[文中 敬称略]
ヤ ンバルテナガコガネ
Holotype:国立科学博物館所蔵

ヤ ンバルテナガコガネ
Paratype:琉球大学風樹館所蔵
科博のは水沼氏が採集した個体、琉球大のは普久川ダムで採集さ れた個 体。普久川ダム標本は右前脛節の端棘先端が折れている のが特徴で、Holotypeにして所属する科博に入れたい黒澤博士と、地元の機関として手元に置きたい琉球大学東清二教授との 間でせめぎ合いがあったい わく付きのもので ある。結局、複数個体の採集に成功した水沼氏のおかげでこの標本は無事琉球大学に保管されることになった



携帯 から見て る人には申し訳ないが

全体画像がないのも寂しいので小学館「週刊日本の天然記念物09」を図示

冊子 表紙を飾 るのは↓琉球大のParatype

フィギュアの前脚がやや太く感じる以外はすばらしい出来


○イ ナバテナガコガネ Cheirotonus ohtai Ueda, 1989
♂:45mm
鳥取県で産出した化石種で、どうやら世界で1つだけのテナガコガネの化石らしい
論文に添えられた図版で見る限り前胸背の点刻が粗く、ダヴィドテナガ(=Propomacrus属)っぽくも見え るが、水沼氏の考察では前 脛節先端の形状から見てCheirotonus属で良いとのこと

↑記載論文と画像
月刊むし431号:ヤンバルテナガコガネの25年 の文中では♀と表記されているが、この前脚の形状は♂であろう
化石は右図 のように 岩石中に存在しており、AとB、CとDは本来それぞれ一連の岩石である。化石の印象(型)はABの下面とCDの上面に付いてお り、上下2面分存在してい る。しかし、この 化石は発掘するときハンマーで岩石をぶったたいてしまい、残っているのはAの部分とDの部分だけなのである
世界で1例であるから、採取者はもちろん話を聞いた人々、論文を見た人々の多くが産出現場を掘り返したのであるが、今のところ残 りBとCの破片が発見され たという情報は伝わってきていない
 A B 
 □□ 化石の上の葉理  
 _ooo ←化石が挟まっている部分
 □□ 化石の下の葉理
 C D
  _.___
 □□ パーツが足りないため、図示
 ∀D されているのはこのように
     接着されたものである


Propomacrus (ヒメテナガコガネ属)
ヨーロッパ東部から中国まで分布しているが、インド〜西アジア周辺では見つかっていないようである
前脛節に毛が生えているのが特徴とされ、やや小型。2002年頃ヒメテナガの生体が出回った時の飼育では、オオクワガタ幼虫の食 いカスでも充分幼虫が大き くなり、 45mm程度までは楽勝であった。

◎ヒメテナ ガコガネ Propomacrus bimucronatus Pallas, 1781
=arbaces Newman, 1836
♂:28-46mm ♀:25-37mm
ギリシャ・トルコ〜イラン。ラベルによってはイスラエル・レバノンなどと言う地名も見られる。一時期絶滅説が流れ、1980年代 後半には1ペア \150000とも言 われた が、飼育個体が増えた2004年頃は1ペア\2000程度になっていた(@ビッダ)


Turkey


Turkey


Turky

左側の♂♀はどちらもヨーロッパからの標本だが、時期や 価格に鑑 みて飼育 品だ と思う
右の小♂は日本での飼育品
◎ダヴィド ヒメテナ ガコ ガ ネ(シナヒメテナガコガネ) Propomacrus davidi Deyrolle, 1874
ssp. fujianensis Wu et Wu, 2008
♂:35-51mm ♀:31-37mm
体長は最大で50mmを少し超える程度。Type Locality は江西省で、雲南省からも記録がある。最近福建省で発見され、原名亜種を見たことがないのでどこが違うのか解 らないが別亜種にされてい る
ssp. davidi




ssp. fujianensis
 鞘翅会合部の黒帯の幅や前脚脛節の色が異なるらしいが、小さい方の♂には福建省光澤県(武夷山の南西:位置的に は少し北西に 行くともう江西省)のラベ ルが付けられており、形態の特徴が原名亜種っぽいし、鞘翅会合部の黒帯の幅なんてものは個体変異が大きく、阿 達氏のブログで はかなり幅の広い個体が図示されている。個体群の発見が2007年頃だったようで生き虫は日本には入ってこなかったが、中国や台 湾で飼育 されて増えており、まぁそこそこ手 が出る価格で売られて いる

福建省 福州市



福建省 光澤県


福建省


キプロスヒメテナガ コガネ Propomacrus cypriacus Alexis et Makris, 2002
♂:30mm ♀:29mm
キプロス島特産種。色彩などはヒメテナガに似ており、小 型個体では区別は困難。島嶼分布の亜種という 扱いでも良いのではないかと さえ思える。雌雄差があまりな く、『属の特徴に乏し いほど原始的』との理論に従えば最も原始的な種と言うことになる。産地であるキプロス島の自然・社会両方の環境が棲息・採集 に向いておらず、得られた個体 数は極めて少ない

Cyprus I.


Cyprus I.

左2葉の画像は藤岡 (2007)
KOGANE No.8 より引用

◎ムラモト ヒメテナ ガコガネPropomacrus muramotoae Fujioka, 2007
♂:40mm ♀:35mm
チベットに産する。前胸は分布の近いdavidi と異なり『黒』く、トルコヒメテナガbimucronatus に極 めて似ている。鞘翅に明瞭な『隆条』があり点刻を欠くことと、前胸先端の形状(前方に強く突出)で区別できる

Bujiu Linzhi County Tibet


Bujiu Linzhi County Tibet

左2葉の画像は藤岡(2007)
KOGANE No.8 より引用


Euchirus (クモテナガコガネ 属)
フィリピンと(旧)ウォーレス線を挟んでスラウェシ、さらにウェーバー線を挟んでインドネシアマルク諸島に分布している
オオテナガと呼ばれることもありかなり大型化する。サトウヤシの樹液を集める竹筒内の発酵した樹液に誘引され、樹 液にも来てい ると思われる
前脛節は突起・刺ともにほとんどないが、特に大型個体で先端部に毛の束が見られる。体長はlongimanus で85mm、dupontianus でも81mm程度の個体が存在している
クモテナ ガコガネ Euchirus longimanus Linneaus, 1758
ssp. celebicus Ohaus, 1913
♂:44-85mm ♀:55-70mm
 原名亜種はアンボン・セラム(マニパ島という記録もある。『ブル』と書かれている文献やサイトがあるが引用元が不詳で要調査。 少なくとも最近の記録はな い)、 ssp. celebicus はス ラウェシ島北中部に産し、 タラウド諸島からも得られた
 体長は実に85mmに達し、前脚が長くなるので個体の大きさとしては相当なものである。セレベス亜種は体型がやや丸い

Seram Indonesia
←の♂で83mm
E. longimanus 分 布
 ブル島には分布してなさそうだが、アンボン・マニパ・タラウドなんて島はすごくちっこいので、まだ見つかっていない島もあるか もしれない
ssp. longimanus

Ceram

Ceram


左の ♂が不格 好な のは展足したく ないわけでも放置したいわけでもなく、あちこちに謎の緑色の接着剤が付いていてどうにもならないのである
どうも胸部と腹部を付けたかったらしいのだが、そこがはずれていると言うことは多分パッキング時には腐っており、脚にもあちこち 接ぎあとがある
採集後どうやって殺しているのか不明であるが、この種を軟化しようとすると恐ろしい悪臭が拡がるとともに茶色い液体が腹部から垂 れてくるのが常で、熱帯地 方で昆虫の死体を乾燥するのが困難なのは良くわかる
接着剤だけにとどまらず、(一部なんだろうが)フィリピンとインドネシアの標本商はいろいろ無茶をするが、虫の死体を良いコン ディションにとどめるのは我 々が想像するより難しいのだろうか

Ambon Is.


Ambon Is.




ssp. celebicus

Mapaga C.Sulawesi

Tambu N.Sulawasi

Tambu N.Sulawasi
第1 次ブーム +クワガタブームのおかげもあってインドネシア内 が結構精査され、その中でスラウェシ北部からこのssp. celebicus の再発見の報がもたらされ た
 しかし入荷はごく少数で、情報を聞いて木曜社に乗り込んだときにはすべて売り切れており、♀の山の中に紛れていたのをようやく 発見したのが2番目の小型 個体
その後、左のように中央セレベス寄りからも得られているようである

longimanus
ssp.

Talaud Is. N.Sulawesi
タラ ウドはセ レベスの北約300kmの所にある諸島で、位置的 にはスラ ウェシ島よりdupontianus の 分布するミンダナオ島に近いが、形態から見てlongimanus で良いと思う
スラウェシ産と比較して前脛節の湾曲が強く、前胸の前端がやや角張り後縁が小楯板方向に出っ張っている印象を受けるが、大型個体 の形態は不明
どれくらいの大きさにな るかもわからないが、この個体は44mmでかなり小さい。タラウドからは少なくとももう1頭本種が得られているが、そちらも小さ く、前胸の色が濃い個体で あった







セスジク モテナガ コ ガネ Euchirus dupontianus Burmeister, 1841
quadrilineatus Waterhouse, 1841
♂:49-81mm ♀:54-65mm
フィリピンに産し、ルソン・マリンドゥケ・カタンドゥアネス・ミンドロ・ディナガット・ミンダナオあたりの島から記録があり、海 外のサイトでは分布地としてサマール(Samar)を含 めているところもある。しかし、 通常流通が見られるのはマリンドゥケ産くらいで、他に2004年頃と2010年〜2011年にかけて北部ルソン産がちょこっと入荷した。クワガタの入荷 と連動している面があるよ うでセツロウオオクワガタD. ritsemae setsuroi と ともに1990年代に結構入荷していたミンダナオ産を最近は見ない分、オオヒラタD. titanus typhon ブームでカタンドゥアネス産が入るように なったのが面白い
鞘翅に縦に黒帯が入り、黒い部分の幅や範囲には個体変異があるが前種との 区別は容易

Nueva Vizcaya N. Luzon

Nueva Vizcaya N. Luzon



E. dupontianus 分布
 間のフィリピン中部地域から記録がないのが不思議である

Marinduque I.

Katanduanes I.

Mindro I.

Mindanao I.









Home